腰痛 「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察



   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(1)

   


 腰痛、と聞くとだれでも、周りにいる腰痛持ちの人の顔が一人や二人は浮かぶはずです。実際、病院を訪れる腰痛患者は風邪の次に多いといわれていますの で、腰痛で苦しんでいる人は非常にたくさんいるわけです。そのため、中年向けの健康雑誌だけでなくても、若い人向けの雑誌や週刊誌などで、腰痛に関する特 集記事を目にすることも多いでしょう。

 もちろんテレビも同じです。
NHKでも、腰痛の特集が放映されました。録画したものを友達が持参してくれたので見てみましたら、福島県立医科大学学長の菊池臣一氏が出演していまし た。

 菊池氏は腰痛の権威とも呼べる存在で、私の手元にも著書があります。その番組内で、菊池氏は「現在、腰痛の80%はその原因がわかっていない」とコメン トしていました。

 一般の整形外科医なら、こんな正直な数字を口にすることはできません。菊池氏は、著書を通しても、その真摯な治療態度が感じられるほどの人ですが、それ にしても正直な、とわたしは少なからず驚きました。本当のところ、視聴者はこの数字に驚くべきなのですが、果たしてどれだけの人がピンと来ていたことで しょう。

 ご存知の通り、現代は日本のみならず世界中に腰痛患者が大勢います。そのようなごくありふれた疾患でもあるにも関わらず、実にその8割は原因不明なので す。原因が解明されていない以上、当然ながら積極的な治療法も存在しません。これは要するに、腰痛患者の8割は治らなくても仕方がないといわれているよう なものです。こうなると、腰痛というのはもう難病のような存在だといえます。

 そういった整形外科では治らない患者の多くが、さまざまな民間療法やサイキックや宗教的な治療へと流れていきます。なかには治療に何百万円もつぎ込んだ という人もいますし、どこにいっても治らないので、もう腰痛歴50年だという人もいるのです。それが腰痛治療周辺の現状なのです。

 しかし、腰痛は病院では治らない・治せないのがわかっていても、整形外科の中には、民間療法などの施術は非科学的だと考える人も多く、その存在に対して 極端なアレルギー的反応を示す人もいます。

 確かに、民間療法のなかには、治療と呼べないような、かなりおかしなものも多数存在します。けれども、整形外科の腰痛に対する考え方にも、とても科学的 とは思えない内容が数多く存在しているのも事実です。

 わたしの考えでは、整形外科であろうが、民間療法であろうが、実際には腰痛が治せていないという点では、同類だと結論せざるを得ません。

 前掲の菊池市は、其の著書「腰痛」のなかで、「痛み」は形態上の把握だけでは十分に見えてこないと記しています。ここでいわれている形態とは、解剖学的 な形態のことであり、レントゲン、CT、MRIなどといった画像上の形態のことです。つまり、痛みという症状は、形態の変化にその原因を求めることはでき ないといっているのです。
 
 しかし、わたしはそうは思いません。現在のような解剖学的所見や検査画像からでは、症状との因果関係が見出せなくて当たり前です。それだけでは、人体か らの真に形態的な情報の取り出し方が不十分なのです。現在の医師たちは、顕微鏡や検査画像からしか情報を得ようとしていません。本来の形態学の基本どお り、 患者の体の形そのものを直接見るということをしないので、もっとも重要な情報を見落としているのです。

 確かに、いままでの医学教育では、医師が患者の体を目の前にしても、その形を正確に把握することは困難です。そのためには、正確に見ること、手で触れ て、立体として形を正確に把握することの訓練を受けなければなりません。

 美術が専門であれば、そういった訓練は学生の間に受けるものですが、医療の世界ではそういう訓練を受ける機会が無いのです。それでも、長年、真剣に患者 と向き合っていれば、体の形への認識も深まってくるはずなのですが、実際にはさまざまな障害があって、マニュアル的な診断しかできていないのが現状です。

 いうまでもなく、医学は自然科学の一分野です。
 自然科学とは、本来は自然の中から研究すべきテーマを見出すものですが、現在は、そのテーマのほとんどが研究室の中から生まれています。そのため、テー マ選択もその研究方法も、あまりに近視眼的であると感じさせれものが少なくありません。

 わたしには優秀な研究者の多くが、重箱の隅をつつくような研究に歳月を費やしているのは、大いなる社会的な損失だと感じられます。いまこそ、医師たち は自然科学の基本に立ち返り、患者の体そのものを直接観察する必要があるとわたしは考えます。そうしてみて初めて、そこには規則性をみった形態的変化が存 在していることに気づくはずです。

 また、こと腰痛に関しては、痛みという症状の所在と形態的変化との間に、密接な因果関係があることも認識できるはずなのです。逆にいえば、医師たちが腰 痛患者における規則的な形態変化を認識できないうちは、たとえ遺伝子レベルの研究がいくら進歩しても、腰痛の8割は依然として原因不明のままであり、腰痛 は治せない患者のままだということなのです。

 そこで、今回のシリーズでは、改めてわたしの考え方と従来の医学での捉え方との違いを踏まえたうえで、腰痛に関する真の形態学的考察を深めて生きたいと 考えています。

            隔!週間 ハナヤマ通信 210号 2009年2月4日発行


   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(2)

 
  

 ●水虫と虫歯じゃ大違い!


 前回から始めた当シリーズでは、腰痛などの原因となっている「ねじれ現象」を扱っていきます。

 実は、この「ねじれ現象」と、前々回までお伝えしていたシリーズの「形態異常」とは、まったく別の現象なのですが、非常に混同されやすいのが悩みの種で す。確かに、両方とも「左一側性」の現象であり、神経伝達の異常が引き起こしているという点では共通しているのですが、その原因となっている物質や、発 症の仕組みは、大きく異なっているのです。

 しかし、「左一側性」というのが特徴的に聞こえるせいか、原因が全く別の、2つの現象だということを、どれだけ前置きしてから説明しても、「左の口角が 上がっているから、やっぱり腰痛なのですね」とか、「骨がズレるからガンになるのですね!」などと、一緒くたにして、激しく誤解されることがよくありま す。

 また、じっくりと話を訊いてよく理解してくれたようだね、と思っていると、「不思議ですね〜」と、最後に感慨深げにいわれることもしばしばります。わた しは「不思議現象」の話をしているのではありません。仮説は仮説として、あくまでも科学の話をしているのです。ですから、とどめのこの一言は、それまで長 々と説明してきたわたしにとっては、大きく脱力する瞬間でもあるのです。

 実際、似ているから原因も同じだろうと考えるのは、水虫と虫歯は同じ虫が原因なのだと思うようなものです。まさかそんな人はいないでしょうが、そんな人 なら水虫の薬を虫歯に塗ってしまうのかも知れません。

 こんな例を出すまでもありませんが、ガンなどの重大疾患と因果関係がある「形態異常」という現象と、腰痛などを引き起こしている「ねじれ現象」とは、水 虫と虫歯ほど違うものである、ということだけは覚えておいてください。

 それにしても、なぜこうも混同されてしまうのでしょうか。
もちろん、わたしの説明が稚拙であることが最大の原因であることは自覚していますし、なんとか伝わるように、という努力は放棄していないつもりです。しか し、情報の受けて側がおかれている環境にも、情報を混同する原因があるのではないかと感じています。

 最近、いわゆる「ゆがみ」が万病の元だとか、歯のかみ合わせが悪いのが腰痛の原因である、などという、非常に短絡的で、非科学的な宣伝が増えていること にお気づきの方も多いはずです。こういった宣伝が横行することが、情報を単純化して、混同しやすくする背景になっているのではないかと思うのです。

 わたしから見れば、噛み合わせが悪いのが腰痛の原因だ、などというのは、「風邪が吹けば桶屋が儲かる」というのと同じぐらい、ばかばかしい論理ですし、 そこには全く科学的な根拠は見出せませんし、決して、噛み合わせが悪いことが「原因」で腰痛になるわけではありませんし、その程度の理論では、その是非は ともかくも、当の噛み合わせ自体を、正常にできるかどうかも疑わしいと思います。

 まして、万一、噛み合わせが正常になったとしても、それで腰痛が治ることなどありません。もし治ったと思う人がいても、そこに因果関係はないのです。そ れが本当なら、腰痛患者は全員、整形外科ではなく歯科で治療しろということになってしまいます。そう考えたら、これがおかしな考えだというのはだれにでも わかるはずです。

 しかし、そんな明らかに間違っているようなことでも、テレビ、雑誌、などのメディアを通じて、毎日毎日大宣伝されるのを漫然と聞いていると、それが本当 なのかと信じ込んでしまうもののようです。マス・メディアに載る情報は常に正しいものだと思っているようでは、明らかに洗脳されていると思ってください。

 また、テレビCMで、ごく単純な15秒ほどで判断できる内容だけを反射的に受け入れ続けていると、段々、自分の頭で考えるということができまくなりま す。ちょっと考えればわかるようなことでも、そのちょっとができなくなってしまうのです。

 自分で考えることが出来ないので、健康のためには「○○を飲みなさい」「○○体操をしなさい」「○○ブレスレットを買いなさい」と誰かに強く言ってもら わないと、不安で仕方が無いのです。現代は、そのような、結論だけを求め、めんどうな論理などは不要だと感じている人が、大勢を占める世の中になっている ような気がします。

 元々、感染症や骨折などは別にして、病気の発症の仕組みというのはかなり複雑なものです。なにか一つのことだけが原因でこうなる、というほど単純なもの ではないのです。

 しかし、自分で考えることができない人たちは、病気に関しては、ウソでもいいから単純な理由でないと、理解できない傾向が強くなっています。そういう、 あ る種だまされやすい人というのは、物を売り込み側の人間には好都合ですが、本当にそれで良いのでしょうか。

 実は誰でも、自分の仕事の領域でなら、そんなことが通用しないのを知っていますし、かなりシビアに物事に対処しているはずです。

 たとえばある会社の経営が傾いているとします。理由はそれぞれですが、とにかく銀行につなぎ融資を頼んでおいて、経営やシステムの合理化を図ったり、商 品開発に注力したりして、経営を見直す必要があるはずです。

 そういう状況でありながら、その会社の社長が「そんな手間のかかることや、難しいことはしたくないので、すぐ効く神社のお札をくれ」とか、「お払いをし てくれ」といっているようなものなのですから、そんな会社は、早晩つぶれてしまいます。

 しかし、これが自分の体のこととなると、平気でこのダメ社長と同じことをしてしまっている人が多いのです。

 病気というのは、生きていればだれでもなるものですから、非常に身近な問題であるはずなのに、かなりのインテリだといわれているような人でも、体のこと となると、いきなり極端な受身の単純思考に陥ってしまいます。

 日ごろから、病気や死というものを、必要以上に恐れて遠ざけていると、いざというときになって、恐怖が知性をブロックして、客観的な判断をできなくして いまうもののようです。そういう人が、コロリとだまされて、怪しい健康食品や霊感商法などの被害者になってしまうのです。

 わたしには「○○が体にいい」といわれると、疑問をもつことも、科学的根拠を尋ねることも無く、鵜呑みにする人が、多すぎるように感じられます。まず 始めに、それはだれにとって得になる情報なのか、ということから、考えてみる必要があると思います。

 これは、体のことに限った話ではありません。
なにか新しい情報に接したとき、「へ〜そうなんだ〜」で終わらせないで、「本当にそうなのかな?」と、疑ってみたうえで、「なぜ、そうなるんだろう?」 と、自分の頭で、考える癖をつけてください。そういう癖をつけることが、人生の多くのことに対して、一方的な被害者にならない秘訣ではないかとわたしは 思っています。

 しかしながら、わたしが伝えようとしている内容は、それほど複雑なことではありません。「形態異常」と「ねじれ現象」に関しても、今時の、携帯電話の取 扱説明書ほど、難しくはないはずです。もちろん、常にもっとわかりやすく、とは思っているのですが、もし、難しいと感じるようなら、紙に印刷して、何度か 読み返してみてください。そして、世の中で宣伝されている「○○が体にいい」といった情報と、どう違うのか、ちょっとだけ考えてみていただきたいのです。

            隔!週間 ハナヤマ通信211号 2009年2月18日発行



   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(3)

   

 ●腰痛は家庭で治す


 「腰痛とガンは家庭で治す」というのが、わたしの研究の最終目標です。ガンの治療法に関しては、まだ完成していませんが、腰痛については、ほぼ完成形が 確立できたと思っています。

 もちろん、「腰痛を家庭で治す」アプローチの完成には、条件があります。まず、誰でもわたしの理論に則って、同じことをすれば同じ結果がでるのでなけれ ばなりません。思い込みや暗示によるサイキックやプラセボなどではなく、この理論や手技が、科学的な根拠に基づくものでなければならないということです。

 それと同時に、その行為自体が、患者にとって絶対に安全でなければいけません。もちろん、高価な装置や器具などを必要とせず、いつでもどこでも行えるこ とも重要です。

 これらの条件をもとに作り上げたのが、「形態矯正」による腰痛へのアプローチ法なのです。
 今までにも、世の中にはさまざまな腰痛治療がありましたが、この大先生しか治せないとか、教祖様しか治せないという類のものでは、たくさんの人に還元す ることはできません。それと同時に、わたし一人が治せても、それでは、世の中のほとんどの人にとって意味がないのです。

 また、漢方における気・ツボ・経絡(けいらく)などの概念を基にして理論構築したのでは、医学領域の共通言語としては通用しません。そうなると、一番理 解してもらいたい医学会の人間に普及できません。

 これらの条件をクリアした上で、まったくの素人でも、簡単に習得できる技術を開発して、「腰痛講座」として、昨年から少しずつ講習を始めました。

 先月開講した「腰痛講座」第3期には、すごい腰痛で仕事にもいけずにいるお嬢さんのために、お母さんが参加されました。

 その娘さんは病院で、腰椎椎間板ヘルニアと診断されていました。病院では、ヘルニア切除の手術を勧められていましたが、その手術を断って、カイロプラク ティックで施術を受けたところ、手技でひねられて痛みが激増し、起き上がることも難しくなったのです。

 そこで、主催者のご好意によって、その娘さんに腰痛患者のモデルになっていただくという名目で、お母さんと一緒に講座に参加していただきました。

 講座初日の朝、お母さんに連れられて、その方は壁を伝うようにして会場に着きました。入室するなり、あまりの痛みに椅子に座り込んで苦悶の表情を見せて います。そして、他の受講生といっしょに座って数時間の講習を聞いた後、実際にお母さんの手で、腰痛を治してもらうことになりました。

 お母さんは、娘さんの背中に向かい、恐る恐るですが、言われた通りに矯正を実践してみました。みんなが見守るなか、何度か矯正を繰り返すと、彼女の腰の 痛みは、徐々に消えていったのです。それと同時に、表情もどんどん明るくなっていきました。そして、何度かの矯正のあと、「あ、もう痛くないよ。お母さん ありがとう!」という言葉が娘さんの口から出たのです。

 ここまでが、講習が始まって、ほんの数時間のことです。何年も苦しんできた腰痛を、まったくの素人の手で取り去ることができたのです。こんなことは、 まったく泳げなかった人が、たった数時間で、世界大会に出場して優勝するぐらいすごいことでしょう。そして、これは、「腰痛は家庭で治す」というわたしの 目標が叶った、うれしい瞬間でもありました。

 さてその翌日、講習会も2日目のことです。
 その娘さんは、昨日は痛みが消えた状態で帰宅されたのに、今朝になると、また痛みが少しぶり返しています。実は、このようなことは、わたしが施術してい ても同じ結果になるのです。

 腰痛などのズレによる疼痛は、その発生原理の性質上、矯正で一旦はズレが消えても、しばらく時間が経つと、またズレてくるので、痛みがぶり返すものなの です。
 それをまた矯正してズレをなくす、という作業を何度か繰り返すうちに、徐々に椎骨の位置も定着して、そして、完全に痛みが出なくなる、というのがお決ま りのパターンです。

 もちろん、施術者にとっては、患者を目の前にして少しずつ、というのも歯がゆいものです。しかし、絶対安全という条件を満たすためには、一度に完全に矯 正しきろうとしないのが得策なのです。そのためには、どこかにでかけて治療を受けるよりも、家族の誰かの手で毎日少しずつ、家で矯正するのが最も効率が良 いといえます。

 確かに、腰痛治療では根治療法をうたうものは多く見られます。しかし、今後、当シリーズでお伝えしていく腰痛の根本原因が理解できると、実は、腰痛を根 治させる療法などは、存在しないことがおわかりいただけるはずです。

 根本原因と、症状を出す、直接的な原因は別のものです。腰痛の根本的な原因になっているのは、体内に摂り込まれたある種の化学物質です。そして、その化 学物質の影響で、筋が収縮したために発生した、「関節のズレ」という、機械的な問題が、直接、症状を引き起こしているのです。

 言い換えれば、根本原因は分子レベルの問題であり、症状の直接原因は力学的な作用によるものだということです。ですから、力学的な矯正によって痛みを取 り去るというのは、対処療法に過ぎないわけです。

 要するに、手技の如何に関わらず、他人の手で、根本原因を取り去って根治させることはできないので、根治を願うなら、患者本人が、腰痛の原因である化学 物質を、一切摂らないようにするしかないのです。

 しかし、未開の地ならいざ知らず、現代のわれわれの暮らしでは、それは非常に難しいことでしょう。そうであれば、やはり症状が出るたびに、毎日、家庭で ズレを矯正してやるのが、最も効果的だといえます。

 実際のところ、矯正には5〜10分ほどしかかかりませんし、軽いものなら、1回で痛みが解消します。また、長引くようでも、毎日行えば、ほとんどの腰痛 は1〜2週間で症状が出なくなるはずです。たったそれだけのことで、整形外科では80%も原因がわからないとされて、積極的な治療法も存在しない腰痛が、 解決してしまうのです。

 それなのに、なぜ、専門であるはずの整形外科では、ほとんどの腰痛の原因すらわからないのでしょう。しかも、それらはなぜ、ストレスが原因だと考えられ てしまうのでしょうか。これらの問題点について、次回から検証していきたいと思います。

           隔!週間 ハナヤマ通信 212号 2009年3月4日発行




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(4)

   

 ●腰痛は人類の宿命!?


 整形外科医が書いた腰痛に関する本には、「腰痛は、人類が二足歩行を始めたときからの、宿命である」と、最初に書かれていることが、多いようです。

 前にも触れた、NHKの腰痛特集番組でも、この内容にはかなりの時間を割いて、説明していました。わたしは、このような記述を目にするたび、二足歩行が 腰痛の原因だというのなら、腰痛患者を四足で歩かせれば、腰痛が治るのか?と突っ込みたくなりますし、二足歩行で腰痛になるのであれば、鳥だってカンガ ルーだって、あの、恐竜Tレックスだって腰痛で苦しんでいたのか?とも訊きたくなってしまいます。

 整形外科医は、気軽に「人類」という言葉を遣っていますが、何をもってして「人類」と定義するかについては、実は、専門である人類学のなかでも常に流動 しているのです。それまで見つかっていなかった種類の化石骨が、新しく出土すれば、定説などいっぺんにひっくり返ってしまいます。しかし、腰痛関連の本で は、整形外科医がいうところの「人類」の定義がどのようなものであるかは、まったく説明されていないのです。

 人類には、猿人、原人、旧人、新人の4段階があり、それぞれが、骨格形態によって分類されています。われわれ現代人やクロマニヨン人は、新人であり、ホ モ・サピエンスに分類されますが、恐らく、整形外科医のいう「人類」とはホモ・サピエンスのことではありません。

 その文脈からは、「二足歩行を始めて両手が使えるようになったサルが、道具を使えるようになったのが人類の始まりである」とダーウィンが規定していた段 階を、人類の定義だとしているようです。すると、われわれの先祖で最初に道具を使ったのは約240万年前のホモ・ハビリスですから、原人を指していること になります。

 また、二足歩行がテーマなのであれば、2009年3月現在では、アフリカから出土したルーシーが起源だということにもなりますし、最近の調査では、二足 歩行の起源は約2100万年前のモロト猿人までさかのぼるともいわれています。結局どれをとっても、整形外科医がいう「人類」を明確に定義することはっで きません。

 しかし、これら原人や猿人の化石に、腰痛の痕跡があったなどという話しは、古病理学でも、いわれていません。そもそも、一般的な腰痛の原因とされる、腰 椎椎間板ヘルニアですら、骨にはまったく痕跡が残らないのですから、化石骨から云々できる類のものではないのです。

 古人骨にもっとも一般的に見られる脊椎病変としては、変形性脊椎症があります。この変形性脊椎症は、椎体の周りに骨増殖や変形が見られる脊椎病変です。 しかし、このような病変があったとしても、腰痛との因果関係までは証明できません。これは、現代でも、60才以上の人には、一般的に見られる病変ですが、 ほとんどの場合、何の症状も出しません。

 現代人の腰痛ですら、その80%はレントゲンやMRIで骨を見ても、原因がわからないのですから、化石骨や古人骨を見て、腰痛の証拠を見つけることな どということはできるわけがないのです。

 こうやって考えてくると、やはり、「腰痛は、人類が二足歩行を始めたときからの、宿命である」という説にはなんの科学的根拠もないことがわかります。つ まり、この「腰痛宿命説」は、整形外科医が勝手に作り上げた、単なる空想物語に過ぎないのです。

 それではなぜ、整形外科医の多くが、このような空想物語を腰痛の原因の前提だと考えてしまうのでしょうか。次回からは、そのことについて考察してみたい と思います。

           隔!週間 ハナヤマ通信 213号 2009年3月18日発行




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(5)

   

 ●医師から出された科学敗北宣言


 前回、「腰痛は、人類が二足歩行を始めたときからの宿命である」という、整形外科医が頻繁に口にする説明には、まったく科学的根拠がないという話を書き ました。

 この宿命という言い方に、旧約聖書の「創世記」をイメージした人もいるのではないでしょうか。

「創世記」のなかでは、人類の始まりだとされるアダムとイブが、神の言いつけに背いて、禁断の木の実を食べたため、楽園を追われたと書かれています。そし て、アダムとイブの子孫であるわれわれ人類は、神に対して、生まれたときから罪を負った存在である、というのが原罪、すなわち宿命の考え方です。こうし て、人類は、楽園を追放され不死でなくなったのと同時に、調和した状態からも遠い存在として生きていく宿命を負いました。

 つまり、「腰痛は人類の宿命である」というのは、人類の原罪に対して、腰痛は、神から与えられた罰である、といっていることになるのです。

 人類史上、長きに渡り、すべての病気は神や信仰との関わりでもって説明されてきました。特に、治らない病気については、患者の犯した罪に対して、神から 課せられた罰であるという考え方が、世界的に共通して見られます。そのため、不治の病の患者は救済されるべき存在ではなく、社会から排されるべき対称だと 見られていたのです。

 例えば、らい病(ハンセン病)は、旧約聖書のレビ記に診断や隔離などの方法が記載され、厳格な戒律が定められて以来、罪の対象のような業病として、患者 は強い偏見を持たれてきました。これは、一部では現代にいたるまで残されてきた考え方です。

 このような流れに大きな変革をもたらしたのは、西洋哲学の祖と呼ばれるデカルト(1596-1650)でした。

 デカルトが、精神と物質を完全に切り離して考えることを提唱してから、近代科学が発展していきました。それ以降、病気は司祭の手を離れ、科学の手にゆだ ねられるようになっていったのです。そして、科学が発展するに従って、病気の原因が神からの罰でないことが一般にも理解されるようになりました。

 ところが、科学全盛であるはずの現代において、「腰痛は宿命である」などといわれたのでは、腰痛患者は、いきなり旧約聖書の時代に引き戻されたようなも のです。教会で洗礼を受けて、告解でもしなければ腰痛はなおらないとでも言うのでしょうか。もちろん、そんなことを言っているとは、当の医師本人も気づい てはいないでしょう。

 実際のところ、医師が宿命を口にするのは、腰痛が治らないのは、医師の責任ではない、と言いたいだけなのです。しかし、それは単なる、責任転嫁であるに 留まらず、彼らが、科学に立脚する立場である以上、その一言が、科学の敗北宣言になってしまっている、ということだけは自覚しておいてもらいたいもので す。

                 隔!週間 ハナヤマ通信 2009年4月1日発行



   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(6)

   

 ●腰痛の原因はストレスではない!


 前回まで、整形外科医が、本に書いたり、テレビで公言したりしている腰痛の原因について、反論を述べてきました。今回は、そのなかでも、最近、最も頻繁 に採り上げられている、ストレス原因説について、考えてみたいと思います。

 ストレス原因説とはなんでしょう。
これは腰痛のほとんど(85%)は原因不明であるが、その引き金となっているのはストレスだという説を、縮めていうと、腰痛の原因はストレスにある、にな るようです。

 先日も、ある医療情報をあつかうバラエティー番組が、「腰痛の知られざる原因を解明した!」というような内容だったので、録画してもらったものを見てみ ました。

 この前見た国営放送の番組とは違って、さすがに民法です。おどろおどろしい音楽とともに、「誰も知らなかった真の原因とはっ!?」と、CMをはさんで何 度も何度も引っ張った挙句、結局のところ、ここでも同じく、腰痛の権威・福島県立医大から専門家を呼んで、「腰痛の真の原因はストレスだったのです!」と いわせていました。

 しかも、腰痛で寝たきりになっていた患者が、ブロック注射であまり効果がなかったのに、夫から勧められて、犬を飼うようになったら、(犬をかわいがるこ とでストレスが解消されて)腰痛が治った!という落ちでした。

 もう、あまりにお粗末な展開に、開いた口がふさがりません。元々、ストレスなんかまったく関係なかったのです。単に、犬の散歩で毎日歩いて、代謝がよく なったことで治癒したとしか考えられません。

 テレビで放送されると、鵜呑みにした人たちで社会現象化しますから、さぞかし犬が売れたことでしょう。それで毎日、犬としっかり散歩していれば、本当に 腰痛が治る人もいるはずですから、ひょうたんから駒、と笑って受け止めるべきなのでしょうか。

 しかし、驚くべきことに、これだけストレスが原因だと、本にも書いているし、テレビでも聞かされているのに、実は、当院を訪れる患者さんのなかで、スト レスが原因であると、整形外科でいわれた人は今までに一人もいないのです。

 不思議ですね。うちには、原因不明の85%を除いた、残りの15%の人しか来院しないのでしょうか。当然ながら、そんなはずはありませんが、これはどう いうことなのでしょう。

 うちに来る患者さんのほとんどは、来院前に整形外科を受信しています。そこで、腰椎椎間板ヘルニアなどの、正式な診断名がついている人もいますが、だい たいが、検査画像を見てもなにもないので、何もコメントがないか、あったとしても、椎間が狭くなっているとか、老化だとか、背中がまっすぐだとか、曲がっ ているとか、筋肉痛でしょう、などといったあたりのことをいわれるばかりで、たいした説明を受けていません。

 そしてそのあとには、お決まりの、コルセット・湿布薬・鎮痛剤・胃薬・ビタミン剤あたりを処方されて、また来なさい、で終わりです。どの整形外科医も、 原因であるような原因で無いような説を並べはしても、あの、錦の御旗(にしきのみはた)、ストレス原因説を口にすることはないのです。

 これはなぜでしょうか。
検査の結果、体には何の問題もない。それなのに患者は痛がっている、というのが原因不明といわれる状態です。それを、ストレスが原因である、と診断するな ら、要するに、腰が痛いのは患者の気のせいだ、といっていることになるのです。

 それに対して、鎮痛剤なりコルセットなりを処方することは、傷も無いところに、消毒して包帯を巻いておけというようなものですから、痛みが気のせいだっ たのなら、コルセットも鎮痛剤も効くはずがありません。そうなれば、治療のためには心療内科に紹介しなくてはいけませんが、それでは、整形外科の売り上げ になりません。

 腰痛の85%が原因不明だといっておきながら、ストレスが原因だといった時点で、すでに話が矛盾しているのですが、腰痛患者は整形外科のドル箱ですか ら、毎日、その85%の患者を、心療内科に送るわけにはいきません。

 ましてや、身体上は何の問題も見つからないので、問題がないから整形外科では治せませんとは、なおさらいえないわけです。そこで、なんとなく患者が納得 しそうな話でお茶を濁しておいて、あとはお決まりのセットを処方して、自然治癒を待つのが常套手段なのです。そんなひどい話が、と思うかもしれませんが、 こんなことは、腰痛患者なら誰でも経験しているはずです。

 では、本当にストレスが原因なのかというと、もちろんそうではありません。以前にも書きましたが、生命体において最大のストレスは生命の危険を感じるこ とです。その生命を脅かされるような、戦争や飢餓といった状況は、今の日本にはありませんが、世界を見渡せば、戦争も飢餓もあふれています。そんな明日の 命の保証のない人たちを前にすれば、われわれが日ごろ感じるストレスなど、比較にもなりませんし、ストレスが原因で腰痛になるなどとは、恥ずかしくていえ ないはずです。

 それでも、どうしてもストレスを持ち出したいのなら、ストレスが原因で腰痛になる、ではなく、腰痛があれば、ストレスを感じる、というのなら納得できま す。

 実のところ、ストレス原因説を提唱している整形外科医も、自分の患者の前では、ストレスが原因だとはいわないようですから、あくまでも表ではああいい、 裏ではこういうという、二枚舌が業界の常識なのかも知れません。

 しかし、もし本気で、ストレスが腰痛の原因だと思っている医師がいるなら、科学的思考ができていないことになります。

 近代科学は、すべての現象は物理・化学で解明できるとする「機械論」と、それに対して、現象の中には、物理・化学では解明できないものがあると考える 「生気論」、この両者の葛藤のなかから発展してきました。

 今、医師の立場で、腰痛の原因がストレスであるなどと口にすることは、機械論を放棄して、生気論の時代に逆行するようなもので、これまた前回の結論と同 様、医師からの科学の敗北宣言であるといわざるを得ないのです。

           隔!週間 ハナヤマ通信 215号 2009年4月15日発行 




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(7)

   

 ●腰痛にまつわるウソ・迷信


 前回までは、整形外科医の非科学的思考について書いてきました。

 腰痛に関しては、化学的に原因不明なことをいいことに、非科学的どころか、さまざまなウソや迷信が存在しています。
今回は、そのいくつかを採り上げてみたいと思います。

▼腰痛は、腹筋と背筋のバランスが崩れたために起きる。

 このフレーズは、だれでも一度は目にしたことがあるでしょう。ここでいう腹筋・背筋とは、腹壁筋と自所的背筋群のことだと思います。
 
 それでは、この両者のバランスが崩れるとは、どのような状態なのでしょうか。具体的には、筋肉がどのようになると、バランスが崩れたといえるのか、まっ たく不明です。これは、医師が素人のために、医学的な詳しい説明を省いてくれているわけではなく、本当に意味不明なのです。

 しかし、この腹筋・背筋のバランス説は、かなりの説得力を持って一般に浸透しています。わたしが考えるに、もし仮に、腹筋と背筋のバランスが崩れるなど という事態が発生したら、人は、まともに立っていることすらできないはずです。そうなれば、腰痛レベルの話ではない大問題です。

▼腰痛は、筋力の低下が原因である

 これも、腹筋・背筋バランス説を披露したあとに、必ず続いて見られるフレーズです。筋力が低下して、腰椎を支えられなくなったから、腰痛になる。だか ら、筋力トレーニングをしなければいけない。というのです。日ごろから、筋力トレーニングを欠かしていません、といいきれる人のほうが稀でしょうから、こ のフレーズも、かなりの説得力を持って、腰痛患者に受け入れられているようです。しかし、そもそも筋力トレーニングが出来る程度の腰痛なら、たいした症状 ではありませんから、ほっておいても時間の経過とともに治るはずです。

 腰痛に限らず、筋力トレーニングをすれば健康になれると錯覚している人が多いようです。けれども、歩くことを除けば、なんらかのトレーニングによって腰 痛が治ることはありません。それが証拠に、筋力が一般人の何倍もあるような、プロのスポーツ選手のなかにも、腰痛の人はたくさんいます。ですから、筋力の 低下が腰痛の原因というのも、もちろん迷信です。

▼腰痛は、老化の性である

 これは、筋力の低下が原因であるという上記の説と似ていますが、医師から面と向かって、老化のせいだといわれると、ある一定の年齢以上の人なら、まった く反論できないでしょう。

 しかし、腰痛と老化はまったく関係ありません。実際の統計上でも、腰痛患者が多いのは30〜40代ですし、最近では若年層の発症も珍しくはないのです。 腰痛が老化現象だというのは、昔のイメージですから、いまだに、原因は老化のせいだと言い張る医師がいるなら、不勉強といわざるを得ません。

▼やわらかいふとんで寝ると、腰痛になる

 これは、試しに腰痛の人を板の間に寝かせて、痛みが消えるかどうかを実験してみれば、すぐに結果が出ます。ふとんの硬さなど、実際には関係ありません。

 似たような話で、出張先のホテルのベッドがやわらかくて腰痛になった、というのもよく聞きます。実際には、出張先で外食によるグルタミン酸ソーダ (MSG)の大量摂取+夜更かし+出張前準備や長距離移動による疲れ、などか加算されて、腰痛になったと考えるべきです。

▼枕が合わないから、腰痛になる

 これもひどいい話ですが、ここ10年程、大変高価な枕が売れているようです。その人の体型に合わせた枕だといわれれば、体に良いような気がしてしまうの も、わからないではありません。

 しかし、世の中、そんなに寝相の良い人ばかりではありません。わたしなど、朝になったら、枕はどこかに行っていますから、枕が合う・会わないは、問題外 です。
 また、オーダーした枕で腰痛が治るということについて、医学的な根拠はありません。江戸時代など、結った髪を崩さないように、かたい木の箱を枕にしてい たのに、そのせいで腰痛患者があふれていた、という記録は見たことがありません。当然ながら、枕が体型に合わないぐらいで、腰痛になるわけなどないので す。

 オーダーといえば、靴の中敷(インソール)も同じですが、インソールの場合、左右の、脚の長さを矯正する目的で入れると、いつまで経っても腰痛は治りま せん。この話は以前にも書きましたが、腰痛や膝・股関節痛などの原因が脚長差だといわれても、矯正が目的のインソールは逆効果ですから使ってはいけませ ん。

▼怒ると腰痛になる

 この説で、かなり売れた本もありますが、この説にも、科学的な根拠などありません。確かに、人間は緊張したり怒ったりすると、痛みが増幅して感じられる ものです。しかし、感情自体が腰痛の原因になるわけではありません。

 腰痛に限らず、あらゆる疾患を精神状態や性格と結び付けて考えたがる人も多く、この説にも熱狂的な信者がいるようです。けれども、患者にしてみれば、唯 でさえ苦しい状態で、性格のことまでいわれたらたまりません。健康な状態なら穏やかでいられても、我慢できない痛みがあれば、普段よりも怒りやすくなるの は当然です。

 そうはいっても、人間の思い込みの力というのは絶大です。怒るのをやめて腰痛が治ったという人がいても、その人たちの体験に、ウソはないのかもしれませ ん。しかし、本当に怒りの感情で腰痛が引き起こされるのか、というと、これは、改めて実験してみるまでもなく、すでに歴史がその結論を出しています。

 「こやろう!!」(イタタタッ)
 「なんだ、テメェ!」((アイタタッ)
 「こ、この・・」(イタッ)
 「な、なっ・・」(イタッ、タッ)

これではケンカになりません。本当に、怒りが腰痛を引き起こすのであれば、この世から、一切の争いごとは、消えているはずです。

 以上のように、腰痛の決定的な治療法が存在しないがために、当事者以外から見れば笑い話のような説明が横行しているのが現状です。

           隔!週間 ハナヤマ通信 216号 2009年4月29日発行



   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(8)

   

 ●ヘルニア手術のミステリー


 前回までは、整形外科では腰痛の85%の原因は不明だとしてることについて書きました。

 それでは、残りの15%の、原因がわかっているはずの腰痛についてはどうなのでしょう。

 現在、原因が特定されている腰痛のうち、最も一般的なものが「腰椎椎間板ヘルニア」です。このヘルニアとは、椎骨と椎骨の、クッション役をしている椎間 板の、外側を取り巻いている線維輪が、なんらかの原因で断裂し、中の髄核が飛び出して、外側にある神経を圧迫している状態です。その結果、ヘルニアが、腰 椎で発生したのであれば、腰痛や下肢痛の症状が引き起こされると考えられています。

 しかし、「なんらかの原因で断裂」と書きましたが、なぜ断裂するのかについては、医学的にはまだ解明されていません。老化のせいではないかといわれてい ますが、それもはっきりしているわけではないのです。

 つまり、「椎間板ヘルニア」も、症状を引き起こしている原因はわかっているが、根本原因は不明だという点では、他の腰痛と変わりません。ですから、原因 がわかっている15%の腰痛のなかに、この「腰椎椎間板ヘルニア」を含めているのはおかしいのです。85%などといわず、最初から、ほとんどの腰痛は原因 不明であるというべきではないでしょうか。

 さて、「腰椎椎間板ヘルニア」の場合、根本原因はわからずとも、痛みの直接原因は、ヘルニアにあると考えられているので、積極的な治療法として、その、 ヘルニア部分の切除手術が行われます。

 具体的には、神経根に当たって痛みを発生させている、飛び出した髄核の部分を、外科的に切除するのです。これは、トゲが刺さって痛むのだから、トゲを抜 けば痛みが取れるだろう、というのと同じ理由です。それなら、素人にもわかります。そのため、大勢の人がヘルニア手術を受けているのです。

 しかし、この理屈が正しければ、手術でヘルニアを切除したら、全員が完治するはずです。ところが、実際の手術結果は以下のようなパターンに分かれます。

(1)完治した
(2)症状がそのまま残った
(3)症状が手術前よりひどくなった
(4)手術前とは違う部分に症状が出るようになった
(5)完治したと思ったが、同じ部分に再発した

これらの手術のパターンについては、当の整形外科医でも、統計は取っていないと思います。けれども、わたしの知る限りにおいては、完治しなかった(2)〜 (5)の症例は、決して珍しいものではないのです。

 ではなぜ、そのような結果になるのでしょう。
(3)の、手術前よりも悪化した例については、単なる手術ミスとも考えられますが、MRIやレントゲン画像で診断しているのですから、ヘルニア自体を見誤 るとは思えません。間違いなくヘルニアは存在しており、そのヘルニアを切除したのに、症状が消えていないのです。

 痛みの原因はこのトゲだといわれたのに、トゲを抜いても痛みは取れない。傷は癒えているのに、まだ痛みが続く、トゲもないところが、また、痛み出す、と いうのではミステテリーです。

 果たして、なぜこのようのことが起こるのでしょうか。次回、検証してみたいと思います。

           隔!週間 ハナヤマ通信 217号 2009年5月13日発行




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(9)

   

 ●ヘルニア手術の正当性は立証されていない!? 


 手術の予約が何ヶ月待ちだという、ある有名な整形外科で腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けた方がいます。

 手術をすれば治るといわれたのに、実際には、手術後も症状はまったく改善されませんでした。手術を担当した医師からは、しばらくすれば痛みは消えるとい われたそうですが、手術後1年以上経っても、痛みに変化はありません。この段階で、当院に来られてお話をうかがったわけですが、この方の場合、手術結果か ら見れば、この腰痛の原因は、ヘルニアではなかったといえます。

 整形外科では、一般的に、小さなヘルニアは腰痛を引き起こさないといわれています。ですから、手術が必要なヘルニアを、医師が見誤ったとは考えられませ ん。要手術レベルの大きなヘルニアが存在し、それを切除したのに、痛みは取れなかったのです。それならば、原因はヘルニアではなかった、と考えるのが妥当 なはずです。

 それでは、本当の原因はなんだったのでしょうか。

整形外科的に考えれば、やはりお決まりのパターンで、ストレスが原因だといって、話を決めたいところでしょう。ストレスが原因だといわれると、反論できる 人は少ないので、これで納得しなければいけないのかも知れません。

 しかし、ここで2つの問題が生じます。この方は、ストレスが原因の腰痛に対して、不必要な外科手術を受けてしまったという点が一つ。もう一つは、腰痛の 原因が、ヘルニアなのかストレスなのかを判断する、診断基準自体が、当の整形外科には存在しないという点です。

 手術をしてみて、たまたまヘルニアが原因だったときには治るけれど、運悪くストレスが原因だったときには、手術損だということになります。そんなことで は、ヘルニア手術の正当性が揺らぎます。そればかりか、外科手術には、少なからずリスクが伴うのですから、恐ろしい話です。

 しかし、ここにさらに大きな問題が潜んでいるのです。先ほどの患者さんのように、明らかにヘルニアがあったのにも関わらず、そのヘルニアが、腰痛を引き 起こしていなかったという人は少なくありません。そうなると、今まで、ヘルニア手術で腰痛が治った、と考えられている人たちについても、それが本当に手術 で治ったのかどうか、ヘルニア手術の正当性を、検証してみる必要があるのです。

 腰椎椎間板ヘルニアと聞くと、他の腰痛と違って、重病だと考える人も多いようです。しかし、実際にヘルニアだと診断されていても、時間が経てば、自然に 症状が消えるケースはよくあります。また、鎮痛剤や神経ブロック注射によって、症状を一時的に抑えているうちに、治ってしまうこともあるのです。

 こういった、ヘルニアであっても、痛みが自然に消えるというケースを考慮すると、手術を受けた患者についても、本当に手術で治ったのかどうかは、証明で きないことになります。

 擬態的には、入院中に投与された、鎮痛剤+手術中の麻酔薬+手術後の麻酔薬・鎮痛剤に加えて、安静状態の持続などが、症状を改善させたということも、十 分に考えられるのです。

 結局のところ、ヘルニア手術の正当性を立証するには、入院による安静+<手術>+鎮痛剤・麻酔薬の投与群と、同じ条件から手術だけを取り除いた群とで、 その効果を追跡調査する必要がありますが、現状では、国内の病院において、そのような調査が実施される可能性は低いでしょう。

 それなら、整形外科で言うところの腰痛は、85%どころではなく、ほぼすべてが原因不明であり、ヘルニア手術も、実際には、無効な治療法である可能性は 否定できないのです。

           隔!週間 ハナヤマ通信 218号 2009年5月27日発行




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(10)

   

 ●腰痛にはレントゲンもMRIもムダ!?


 腰痛になったら、まずは整形外科を受診する、という人が多いと思います。受診すれば、ほぼ全員が自動的に、レントゲンなどの画像検査を受けることになり ます。

 しかし、せっかくレントゲンを撮っても、医師から、病名らしいものを聞かされることは、ほとんどありません。そして、そのような、原因もわからず、病名 もつかない腰痛に対しては、椎間(椎骨と椎骨の間)が狭くなっているのが、痛みの原因である、というような説明をされることが多いはずです。

 けれども、椎間が狭くなっていることが腰痛の原因である、という説明には、医学的な根拠はありません。椎間で、クッションの役目をしている椎間板は、年 をとれば、だれでもつぶれてきます。だからといって、そのために痛みが出ているわけではないのです。また、レントゲンの撮りかたしだいでは、いくらでも、 つぶれたように見えてしまうものなのです。

 それなのに、狭くなっているのだから、引っ張ればいいんだろう、という安易な考え方で、牽引(けんいん)などといった、腰痛患者にとっては、余計な、医 学的な根拠の無い治療が、実施されているのが現状です。

 そもそも、当の整形外科でも、腰痛の85%はストレスが原因である、といっているのですから、その85%の人たちにとっては、画像検査などまったくムダ です。また、残りの15%のなかから、もし、画像検査でヘルニアが見つかったとしても、これまた、ヘルニアが症状の原因だとは判断できない、ということは 前回お伝えしたとおりです。そうなると、結局は、ほとんどの腰痛は画像検査をしても意味が無いことがわかります。

 このことを証明するように、最近(2009年)、オレゴン保険科学大学(米オレゴン州ポートランド)のRoger Chou 博士らが「重度の基礎疾患がない腰痛の患者に対して、X線撮影やMRI,CT検査をルーティンで実施しても、臨床の結果は改善しない」という調 査報告(※)をしています。さらにこの調査から、「重度の基礎疾患の特徴が認められない限り、これらの検査をルーティンで即座に実施するのはやめるべきで ある」と結論づけているのです。
※Medical Tribune誌2009年5月14日の記事参照

 つまり、よほど重い病気がありそうだ、と思わない限り、自動的に画像検査を受けさせるのは、まちがっているということです。

 しかし、意味はないとわかっていても、画像検査を受けたい、という患者が少なからず存在する、とこの報告にも書かれています。患者としては、検査によっ て、なにか重大な疾患が発見されるのではないか、という期待があるのでしょうが、実際には、検査画像を見ても、整形外科医は骨しか見ていません。患者の側 では、内蔵も見てくれているもの、と勘違いしていますが、それは期待できないのです。

 レントゲンよりも詳しいMRIの画像ですら、内臓疾患に関して、あまりに見落としが多いので、整形外科の診断は信用できない、と他科の医師から、批判さ れているぐらいです。

 腰痛患者が来たら、だれかれかまわず画像検査をするが、それで腰痛の原因がわかることはほとんどない。それがわかっていながら、毎日、自動的に画像検査 をする、などというのは、他科では考えられないやり方なのです。

 要するに、腰痛に関しては、現在の画像による検査方法は役に立たないということであり、検査すること自体がムダだといえます。

          隔!週間 ハナヤマ通信 219号 2009年6月10日発行




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(11)

   

 ●整形外科の占い・まじない処方


 先日、ある女性が、腰痛と下肢のしびれで、某大学病院を受診しました。精密なMRI検査の結果では、本人が気にするほど悪い状態ではない、ということ で、病名さえつきませんでした。そのうえで、プールで歩くようにして、腹筋と背筋も鍛えるように、と医師から指導されました。

 その方は、これだけの症状があるのに、病名もつかない上に、なんの治療もしてもらえないとなると、不安なので、「そういうトレーニングをすれば、このし びれは治まるのか」と訊きました。すると、その医師は、「運が良ければ、そのうち消えるでしょう」と答えたのだそうです。この、あまりに無責任な発言に、 その方は唖然として、そのまま帰宅されたのでした。

 さて、こういった体験は、整形外科を受診した人にとっては、決して珍しいことではありません。まるで、今まで当誌で説明してきた内容を、そのまま再現 してくれているようでもあります。

 この症例のように、検査をしても、症状の原因がわからない。原因不明なのに、あれこれ筋力トレーニングの指導をする、というのも、実によく耳にするケー スです。けれども、以前にも書いたとおり、筋力トレーニングが、腰痛などの症状を改善するというのは、デマであって、科学的な根拠はありません。

 ですから、トレーニングを勧めるのは、お百度参りのような、迷信を勧めているのと、代わらないのです。ましてや、患者に対して、「運がよければ」などと いって、はばからないような医師は、医師とは呼べません。そんなのは占い師です。それだけでありません。整形外科では、迷信、占いのほかに、まじないを行 うこともあります。

 今回の女性は、下肢のしびれが主訴だったので、買わされませんでしたか、腰痛の場合、ほとんどの人がダーメン・コルセットを買わされます。ダーメン・コ ルセットというのは、元々は、女性がウエストを細く見せるための、美容目的のコルセットを腰痛患者仕様にしたものです。しかし、結論からいえば、コルセッ トというのは、腰痛に対しては、治療にも予防にもならないシロモノです。

 医師から勧められると、はずすのが不安なので、ずっと巻いたままでいる人が多いのですが、コルセットが有効だという科学的な根拠など、これまた、まった く存在しないのです。そんな、ケガもないところに包帯を巻くようなことを、根拠もなく勧めて、平気な顔をしているようでは、まじない師が、ここに魔よけの お札を貼っておけば、腰痛が治りますよ、といっているのと同じです。

 今後もしも、あなたが腰痛などで、整形外科を受診して、コルセットの着用を指示されたら、「これで治るんですね?」と訊いてみてください。もし、痛みが 消えるといわれたのに、消えなかったら、それは詐欺ですから、ちゃんと医師に対して、文句をいうべきです。

 このように、これまで当誌では、一つ一つ、整形外科での処置を取り上げてきましたが、そこには、科学的根拠のない、迷信・占い・まじないの類があふれて いることがわかります。そればかりか、そういった処置では、治らないことを知っていながら、当の医師たちは、それがおかしいとすら思っていません。

 なぜ、自分たちのやっていることが、科学の世界からどんどん乖離(かいり)していくのを、不思議だと思わないのでしょうか。次回は、そのことについて、 考えてみたいと思います。

          隔!週間 ハナヤマ通信 220号 2009年6月24日発行




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(12)

   

 ●消炎鎮痛剤が効くなら、腰痛の原因はストレスなんかじゃない!


 前回までは、整形外科の論理をもとにして、整形外科での、腰痛に対する、診断・治療の矛盾点を、指摘してきました。その結果、整形外科における、腰痛の 診断・治療の、ほとんどが無効だ、といえるのではないか、という結論にいたりました。ただし、唯一、薬物療法に関してだけは、その有効性が、科学的にも確 認されています。今回は、この薬物療法について、考えてみたいと思います。

 腰痛で、整形外科を受診すると、たいていは、消炎鎮痛剤を処方されるはずです。また、消炎鎮痛剤で、あまり効果がない場合には、局所麻酔剤を使った、神 経ブロックが行われます。ほとんどの腰痛は、これらの薬物療法によって、一時的、もしくは長期的に、症状が治りますので、患者にとって、これらはたいへん 効果的で、ありがたい療法だといえます。

 しかし、なぜ、これらの薬物は、腰痛に効果があるのでしょうか。実は、腰痛に使われているのは、外科手術や抜歯などの、外傷に対して効果を発揮するタイ プの薬なのです。

 ここで思い出していただきたいのは、整形外科では、腰痛の85%は精神的ストレスが原因だ、といっている点です。精神的ストレスだと断定する理由は、患 者がいたいという箇所を検査しても、そこに、外傷と見られる、器質的な異常が発見されないからです。整形外科では、器質的異常がないのだから、原因は精神 的なものだろう、と結論付けているわけです。それなのに、実際の治療現場では、器質的な異常、つまり、外傷に効くはずの、ロキソニンなどが、腰痛に効果を 上げているのです。

 この事実は、腰痛の原因のほとんどは、精神的なものであって、器質的なものではないとする、整形外科での論理と、矛盾しています。この矛盾を解明するに は、整形外科での検査で、器質的な異常が見つからなかった患者に対して、薬物投与の、評価試験をしてみる必要があります。

 具体的には、A:消炎鎮痛剤投与の群と、B:抗不安効果薬などの向精神薬投与の群と、C:プラセボ(偽薬)投与の群とに分けて、比較するのです。その結 果、ほんとうにストレスが原因であるならば、Bの向精神薬が、一番効果を発揮するはずです。しかし、実際には、現在、整形外科が実施している通り、Aの消 炎鎮痛剤が、最も効果を上げる、という結果になるでしょう。

 これは、つまり、ほとんどの腰痛患者には、外傷に近い、なんらかの器質的な異常があるから、消炎鎮痛剤が効果を上げている、ということです。その、器質 的な異常を、現在の整形外科の検査では発見できていない、というだけなのです。

 当の整形外科でも、消炎鎮痛剤や、神経ブロックなどの薬物療法が、腰痛治療では、最も効果を上げていることは、認識しているはずです。それならば、腰痛 は、精神的なストレスが原因である、という前提では、論理として、あきらかに矛盾しているのだ、ということにも、そろそろ気づいてもらいたいものです。

            隔!週間 ハナヤマ通信 221号 2009年7月8日発行



   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(13)

   

 ●腰痛の原因は「ズレ」にあり!


 当シリーズでは、これまで12回にわたって、整形外科のいうところの、腰痛の原因と、治療に関する考え方の、矛盾点を取り上げてきました。これからは、 わたしの考えている、腰痛や線維筋痛症の原因について、お伝えしていきます。

 まず初めに、痛みのメカニズムを見ていきましょう。
 内蔵も含めて、痛みというのは、何かの理由で、筋肉が引きつることによって、知覚されます。また、それらの痛みは、打撲などによって、明らかに筋肉の組 織が傷ついているのでなければ、なんらかの病変に由来している、と考えられます。

 では、腰痛に関してはどうでしょう。日本の整形外科では、原因不明の腰痛を、単なる筋肉痛である、と診断することが多いようです。それでは、なにが筋 肉痛を引き起こしているのか、と訊いても、これまた、原因不明だというのですから、心もとない話です。

 これに対してわたしは、痛みの原因を、ほぼ特定できています。関節を構成するそれぞれの骨が、本来あるべき位置からズレることによって、周辺の末梢神経 を刺激し、それが痛みやしびれの症状を出している、と考えているのです。

 これが事実であることは、そのズレた骨の位置を、元のところに戻してやれば、その場で、患者の痛みに変化が起こることからも、実証できます。これは、患 者の体を通して、仮説→検証の結果を見れば、だれにでもわかることです。

 さらに、このことは、整形外科が、原因不明だと考えている腰痛だけに限りません。椎間板ヘルニアのように、飛び出した髄核が、神経に当たって痛みを出し ている、と信じられている症例についても、同様です。

 椎間板ヘルニア患者の体を、わたしが調べてみると、関節の位置関係は、本来あるべき位置からズレているのです。そのズレている椎骨を、元に位置に戻して やると、手術が必要だといわれるような椎間板ヘルニアであっても、他の腰痛と同じように、症状は取れます。この結果からは、椎間板ヘルニアの原因だと考え られていることが、実際には間違っていることがわかるのです。

 以前、こんなこともありました。ある人が、撮影の仕事で、誤って車ごと崖下に転落してしまいました。脱出後、左肩に激しい痛みを感じて、整形外科を受診 しましたが、画像検査ではまったく異常が認められません。医師からは、単なる打撲だと診断されたものの、その痛み方は打撲のレベルではありません。耐え難 い痛みでどうしようもない、というので、わたしが診てみると、左の肩甲骨が、定位置から外側に向かって、著しくズレているではありませんか。

 肩甲骨というのは、肩甲骨と鎖骨と上腕骨とで、構成されています。これらがまるごと大きくズレていれば、それだけ痛みの範囲も広がりますから、尋常な痛 みでないことは、当人でなくてもわかります。この人が普通の人だったら、鎖骨が折れていたはずですが、彼の場合、骨が強いのが災いしました。骨が強くて持 ちこたえてしまった分、大きくズレてしまったのです。かわいそうですが、骨折していたほうが、痛みは少なかったはずです。とはいえ、ズレた肩甲骨を正常な 位置に戻すと、痛みはその場で大幅に軽減されました。また、肩周辺に広がっていた腫れも、引いていきましたので、骨折していたよりは、完治するのも早かっ たでしょう。

 では、なぜ整形外科とわたしとでは、こうも判断と結果に違いがあるのでしょうか。その一番の理由は、整形外科では症状がある部分しか診ようとしていない 点にあります。部分的、つまり、痛い側の肩しか診ないので、肩甲骨が、定位置から大きくズレてしまっていても、まったく気がつかないのです。これが、精密 な画像検査であっても、同様です。両肩を撮って見比べてみなければ、左右で関節の位置関係に違いがあることは、わかりようがないのです。

 整形外科において、関節の位置関係の違いが問題となるのは、脱臼の場合に限定されます。しかし、脱臼というのはかなり特殊な状況ですから、腰痛に比べれ ば、症例が少ないはずです。そのため、整形外科では、関節の位置関係を、意識して見ることが少ないのかもしれません。そうであっても、これは完全な見落と しである、ということは否めません。

 もちろん、こういった、脱臼までいかない、ちょっとした関節の位置関係の違いについては、医師たちが手にする教科書には出ていませんし、その存在すら認 識されていないのですから、用語もありません。仕方がないので、このちょっとした関節の位置関係の違いを、わたしはズレと呼んでいますが、このズレこそ が、実は、とんでもない症状を引き起こしているのです。

 それにしても、毎日、何十人も患者を診ている医師が、どうして、こんなわかりやすい事実に気がつかないのでしょう。確かに、全体を俯瞰(ふかん)した状 態で、なおかつ、同時に、局所的な部分を見る、ということができなければ、関節の位置関係を、正確に判断することはできません。これが、多くの医師が不得 意とするところであり、経験上、わたしの得意とするところだといえるわけですが、患者が治らないことに、疑問を持ち続けてさえいれば、いつかは発見できる はずです。

 実は、人体において、なんらかの症状を出現させるのは、上下、前後、左右軸のうち、基本的には、左右において違いがあるときに限られます。この左右の位 置関係の違いから、ズレを発見できるようになると、そこに必ず、症状との因果関係があることがわかります。そして、さらに俯瞰すれば、腰痛などを引き起こ しているズレには、恐るべき規則性が存在していることも、認識できるようになるのです。次回からは、このズレの規則性について、考えていきたいと思いま す。

           隔!週間 ハナヤマ通信 222号 2009年7月22日発行



   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(14)

   

 ●腰痛だけじゃない!骨のズレによる症状


 前回は、腰痛などの原因は、関節の位置関係の違い、つまり、骨のズレにある、というお話をしました。この、骨のズレによって引き起こされる症状は、腰痛 だけではありません。

 そこで、わたしが実際に診て、ズレが原因となっていた症状を、挙げてみたいと思います。

 ・頭痛(片頭痛)がする
 ・めまいがする
 ・めまいがして立てない
 ・頭がボーっとする
 ・頭がつる
 ・水のなかにいるような耳鳴りがする
 ・耳が聞こえにくい
 ・目が見えにくい
 ・視野が狭い感じがする
 ・鼻がつまる
 ・虫歯がないのに歯が痛い
 ・歯茎が痛い
 ・舌がつる
 ・口が開きにくい
 ・顎関節が鳴る
 ・顎関節症
 ・アゴが痛い
 ・顔が痛い
 ・首が痛い
 ・首が回らない
 ・頚椎症
 ・頚椎椎間板ヘルニア
 ・肩が痛い
 ・肩が重い
 ・肩がこる
 ・肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
 ・腕が上がらない
 ・腕が痛い
 ・腕がしびれる
 ・腕がつる
 ・肘が痛い
 ・肘がしびれる
 ・テニス肘
 ・手首が痛い
 ・腱鞘炎
 ・手が痛い
 ・手がしびれる・
 ・指が痛い
 ・指がしびれる
 ・指先の感覚がにぶいところがある
 ・背中が痛い
 ・胸が痛い
 ・肋間神経痛
 ・乳房のしこりが痛い
 ・大きく息を吸えない
 ・心臓に妙な鼓動がある
 ・肩甲骨の下が痛い
 ・背中がつる
 ・腰が痛い
 ・腰痛症
 ・ギックリ腰
 ・腰椎椎間板ヘルニア
 ・腰に違和感がある
 ・臀部(お尻)が痛い
 ・尾骨(しっぽ)が痛い
 ・坐骨神経胃痛
 ・鼠蹊部(そけいぶ)が痛い
 ・股関節が痛い
 ・片脚が長いといわれた
 ・片脚が短いといわれた
 ・陰部が痛い
 ・肛門が痛い(痔疾を除く)
 ・太ももが痛い
 ・変形性股関節症
 ・ヒザが痛い
 ・ヒザに水がたまる
 ・ヒザのお皿の横が痛い
 ・ヒザの側面が痛い
 ・ヒザの裏が痛い
 ・ふくらはぎが痛い
 ・くるぶしが痛い
 ・かかとが痛い
 ・かかとがしびれる
 ・つま先が痛い
 ・つま先がしびれる
 ・足の先が痛い
 ・足の先がしびれる
 ・足の裏が痛い
 ・寝ているときに何度も足がつる

どうですか?
ズレによる症状の多さには、驚いた方も多いのではないでしょうか。このように、骨のズレというのは、実に広い範囲に症状を出しているのです。もちろん、こ れらの症状が、骨のズレだけで起こっているわけではありませんが、わたしが診たかぎりでは、ズレが原因でなかった例は、1%未満のごく少数でした。

 だからといって、決して、骨のズレが万病の元といっているわけではありません。顎関節が○○だから、とか、骨盤が△△だから全身に症状が・・・などとい う話を、よく目にしますが、人体の構造上、そのようなことはありえません。「●●が万病の元」というような話は、たとえ、医師が口にしていたとしても、実 際には、科学的に証明されたものではないのです。

 わたしの場合は、あくまでも、解剖学上、どの末梢神経に刺激が加われば、どの部分に症状が出るという、ちゃんとした法則にしたがって、判断しています。 ですから、来院前に、電話で症状を聞いただけで、どこがズレているのかも見当がつきます。そして、実際に体を診て、予想通りのズレがあれば矯正しますし、 ズレを矯正しても症状に変化がなかったり、元々ズレ自体がないようなら、改めて、他の疾患が原因である可能性を疑います。

 これは、ほんの数分で判断できる、ごく簡単な作業です。しかし、これらの症状は、単独ではなく、複合的に発生することが多いため、患者だけでなく医師ま でも、大きな戸惑いを感じてしまうようです。そのため、患者は、整形外科、内科、耳鼻科、果ては脳外科まで回って、検査を受けることになります。最終的に は、心療内科に回されるわけです。

 近年、こういった複合的な症状を、「線維筋痛症」と診断する医師も増えてきました。永年、全身に痛みを抱え、あちこちの科をたらい回しにされた挙句、精 神病ではないか、仮病ではないか、と疑われてきた患者にとっては、診断名がつくだけでも、非常にうれしいものです。けれども、診断名がついたからといっ て、治るわけではありませんし、特別な治療法があるわけでもなく、原因すら不明であることに、変わりはありません。

 この「線維筋痛症」と「ねじれ現象」は、かなりの部分で症状が重なっています。しかし、「線維筋痛症」は、その発生の仕組みすら解明されていないため、 他の疾患が原因で起こっている症状との、混同がみられます。そのため、問題が、より複雑化しているのが現状です。

 次回は、骨のズレによって引き起こされている、複合的な症状の、誤解されやすい点について、お話していきたいと思います。

           隔!週間 ハナヤマ通信 223号 2009年8月5日発行



 
   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(15)

   

 ●腰痛の原因解明の鍵は、規則性にある!


 前回お伝えしたように、椎骨の位置関係のズレは、全身に痛みやしびれなどの、様々な症状を引き起こしています。

 このズレは、第2頚椎、胸椎、腰椎においては、必ず左にズレているのが特徴です。そして、最も重要なのは、「必ず左にズレる」という規則性が、ここに存 在していることなのです。

 それでは、なぜ、左にだけズレるのでしょう。ここで、まず、左一側性のズレが原因となっている症状のなかでも、一般的な、腰椎椎間板ヘルニアを、例に とって考察していきましょう。

 腰椎椎間板ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間で、クッション役を担っている椎間板に、なんらかの理由で亀裂が生じ、中の髄核が飛び出して、そばにある神経根 を圧迫、その結果、腰痛などの症状を起こす、というものです。

 では、なにが原因で椎間板に亀裂が生じたりするのでしょうか。整形外科では、老化や、スポーツなどの過度な運動によって引き起こされる、と患者に説明し ているようです。しかし、統計を見てみると、腰椎椎間板ヘルニアは、高齢者ではなく、比較的若い人に多く発症していることがわかります。また、特にスポー ツなどしていない、重労働よりも、デスクワークなどの、肉体的には軽労働の人に患者が多いのも特徴です。

 さらに、実際に腰椎椎間板ヘルニアになった人のほとんどが、事故などの、なにか直接的な原因は思い当たらない、といっています。そして、これは、腰椎 だけでなく、頚椎椎間板ヘルニアでも同様なのですから、どうやら、整形外科での説明と、実際の原因は違っているようです。

 ここで、ヘルニアの原因を、力学的にも考えてみましょう。通常の法則に従えば、外から加わる力が強いほど、受けるダメージも大きくなるはずです。これ は、強く殴られれば、その分、損傷は大きくなるという、ごく当たり前の法則です。ところが、椎間板ヘルニアの場合、外から強い力が加わったわけでもないの に、椎間板に亀裂が生じているのです。

 これでは、力学の法則に矛盾していることになりますが、この矛盾についての解答を、当の整形外科から得ることは出来ません。なぜ、椎間板に亀裂が生じる のかについては、まだ、医学的に解明されていないからです。

 しかし、意図的に、椎間板に亀裂を生じさせる実験(ファーファンの実験)では、椎間板の亀裂は、垂直方向に圧迫・牽引した場合や、水平方向に圧迫・牽引 した場合では生じにくく、雑巾を絞るように、ひねる力を加えると、簡単に生じることがわかっています。

 それでは、そのような、ひねる力というのは、どこから来ているのかが問題になります。通常、腰がひねられるのは、椎骨を支える多裂筋が、片側に収縮した 場合のみです。しかし、通常の動作で腰をひねっても、5個の腰椎はセットでバランスよくひねられるので、椎間板に亀裂など生じません。随意的に、一つの椎 間板だけをひねって、亀裂を生じさせるような、過度な動きをすることは、構造上、不可能なのです。

 すると、椎間板を局所的にひねるには、多裂筋の一部だけを収縮させる必要があることがわかります。そのような、一部だけを局所的に収縮させるのは、外側 からの力では不可能ですし、随意的にも不可能ですから、これは、不随意で発生している現象だといえます。

 では、そのような現象が起きるのは、どういった状況なのでしょうか。結論からいえば、椎骨を支えている、多裂筋の支配神経の異常、もしくは、そこに関与 している、神経伝達物質の異常だとしか考えられません。

 要するに、椎間板に亀裂が生じるのは、外から押されたのではなく、内側から引っ張られた結果であり、その根本原因は、分子レベルの問題だと考えるしかな いのです。しかし、分子レベルの問題だからといって、整形外科でいうように、老化が原因だと結論付けることはできません。それではまだ、これが左一側性の 現象であるという点の、説明がつかないのです。

 そこで次回からは、分子レベルでの問題、すなわち、神経伝達物質について考えることで、左一側性の謎を解明していきたいと思います。

            隔!週間 ハナアマ通信 224号 2009年8月19日号




    

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(16)

    

 ●世界中の腰痛患者が消える!?


 腰痛の原因解明の鍵は、腰椎がズレる方向に、規則性が存在することにある、と前回は書きました。

 その規則性を生む背景には、神経伝達物質が関わっていることが考えられますが、この神経伝達物質について書く前に、「左一側性」に気づいたころのことに ついて、書いておこうと思います。

 そもそも、わたしが、腰痛患者の腰椎は左にしかズレていないという、この規則性に気づいたのは、10年程前のことでした。その数年前から開業し、多くの 腰痛患者を診ていましたので、それまでにも、腰痛患者の腰椎を指で辿ると、正中線からズレていることや、ズレている腰椎を正しい位置に戻せば腰痛が消え る、ということまでは、わかっていました。しかし、そのズレの方向に、規則性があることまでは、気づいていなかったのです。

 治せるんだったら、そんなことどうだっていいじゃないか、と思う人もいるかもしれませんが、ズレと、症状との因果関係を知っているのと、そこに規則性が あることを認識しているのとでは、とてつもなく大きな違いがあるのです。

 この規則性の発見こそ、腰痛発生のメカニズムを知る第一歩であり、根本原因解明へアプローチとなるのですから、これは、わたしの目の前にいる一人や二人 の腰痛を治す、といった対処療法のレベルの話ではありません。一挙に腰痛患者をなくすことが出来るかもしれないのです。

 では、なぜ、それまでにも、多くの腰痛患者を診ていながら、この規則性に気づけなかったのでしょうか。わたし以外にも、多くの施術家が、ある程度まで は、椎骨、のズレの存在には、気がついているはずですが、規則性にまでは気づいていません。

 その第一理由として考えられるのは、ほとんどの患者は、腰痛だけでなく、全身あちこちに痛みを抱えていて、腰椎だけでなく、胸椎も頚椎もズレている点で す。なかでも、頚椎は左右両方にズレますので、そのため、腰椎・胸椎がもつ、左一側性に法則に気づきにくかったのです。

 また、第二の理由として、あまりに単純なことは、特別なこととして、意識の上にのぼってこない、ということも挙げられます。人というのは、日常的に見慣 れたものに対しては、鈍感になりやすいのです。

 そして、左一側性に気づかなかった第三の、そして、最大の理由は、当時のわたしには、医学書に書かれていることはすべて正しい、という刷り込みがあった ことなのです。
医学書には、ヘルニアなどの腰痛は、外からなんらかの力が加わることで発生する、というようなことが書いてあります。そう書いてあれば、当時のわたしは、 疑ってみることが無かったのです。そのため、毎回、腰痛患者の腰椎は、左にズレていることを確認していながら、その原因は、腰椎に対して右から左に向け て、外から力が加わるような転び方でもしたためだろう、と考えていました。刷り込みというのは恐ろしいものです。自分の頭で考えているようでいて、まった く無意識のうちに、そういうものなのだろうと思い込んでいたのです。

 ところがあるとき、腰痛患者の腰椎は、必ず左にズレている、ということに気づいたのです。何かきっかけだったのかはわかりませんが、さすがに、最初のう ちは、この事実に対して、自分でも100%納得していたわけではありません。自分でも疑ってみて、この発見以降は、特に注意深く、ズレの方向を調べてきま した。しかし、結局のところ、現在に至るまでの10年程の間に、一人の例外も存在しませんでした。

 そればかりか、交通事故の後遺症だと診断された腰痛であっても、例外なく、椎骨は左にズレているのです。こんなことがあるのでしょうか。一般的な考え方 ならば、立ち方や脚の組み方、寝方などの、日常的な癖・習慣に、ズレの原因を求めます。しかし、外的な力や、動作の癖などが原因では、左一側性の現象な ど、起こるものではないのです。

 実際には、右利きだろうと、左利きだろうと、腰椎・胸椎に関しては、ズレる方向は、いつも左です。しかも、これは日本人だけに限りません。人種も、住ん でいる地域も、関係ありません。南半球でも、「腰が痛い」という人の腰椎は、やはり左にズレていました。

 また、一昔前なら、腰痛は年寄りの病気だと思われていました。確かに、わたしが子供のころには、同級生に腰痛持ちなんかいませんでしたが、今は、小中 学生の腰痛など珍しくもありません。今や、年齢すら関係なく、世界中に腰痛患者があふれているのです。そうなると、腰痛は現代病。しかも、ストレスなどの 問題ではなく、なんらかの化学物質による、公害病のようなものだと、考えるのが妥当でしょう。それを裏づけるように、未開の地では、腰痛患者を見たこと がない、という報告もあるぐらいです。

 それでは、世界中で、人々の腰椎を左に引き倒して、腰痛を発生させている、その化学物質とはなんなのでしょうか。そんな化学物質に、われわれはどのよう に接しているのでしょうか。次回は、その点から考えていきたいと思います。

           隔!週間 ハナヤマ通信 225号 2009年9月2日発行




    

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(17)

    

 ●中華料理を食べると頭痛になるのはデマ!?
 

 中華料理を食べた後に、頭痛や歯痛・顔面の紅潮・体のしびれといった症状を訴える人が、1960年代にアメリカで多発しました。これらの症状が、チャイ ニーズレストランシンドローム(中華料理店症候群)と呼ばれていたことを、ご記憶の方もおられるでしょう。

 その症状を引き起こす原因物質としては、中華料理に大量に使われていた、化学調味料のグルタミン酸ナトリウム(=グルタミン酸ソーダ=MSG)が疑わ れ、その毒性が問題になりました。

 毒性と聞くと、その物質が有毒か無毒か、という話なのかと思う人がいますが、実際には、摂取量が過剰であれば、どんな毒物でも毒になり得ます。ですか ら、毒性というのは、あくまでも、その固体にとっての、摂取量が判断基準となるのです。

 当時、アメリカ・ヨーロッパなどで、MSGの毒性検査が実施された結果、一日あたりの許容摂取量が定められました。しかし、その後行われた追試では、一 転して、MSGには毒性が認められないとされため、現在では、MSGは食塩などと同じレベルの安全性であり、一日の摂取量に上限を定める必要もない、と認 定されています。そして、チャイニーズレストランシンドロームについても、疫学調査の結果、MSGとの因果関係は、完全意否定されました。

 このMSGが、化学調味料として「味@素」という名前で、日本の家庭に出回り始めたのは、ちょうどわたしが子供のころのことです。そのころは、どの家庭 のちゃぶ台にも、赤いキャップの瓶が乗っていました。この化学調味料に含まれる、グルタミン酸は、神経伝達物質ですから、多く摂れば摂るほど頭が良くな る、とさえ言われていたので、子供たちにたくさん摂らせたい、と思っているお母さんたちも多かったようです。

 この頭が良くなるという話は、売り手に都合のよいデマに過ぎませんが、MSGの摂取と、チャイニーズレストランシンドロームとに因果関係はない、と科学 的に証明された裏には、
未解決の重要な問題が残されています。

 もし、MSGが原因でないというのなら、チャイニーズレストランシンドロームに見られる、頭痛・歯痛などの症状の原因は、いったいなんだったのでしょう か。中華料理に多く含まれる、塩分や油分のせいだという説もあるようですが、そんあことで、あれだけの症状が起きるものでしょうか。この発症の原因につい ては、現在に至っても、医学的に解明されてはいないのです。

 頭痛といえば、慢性の頭痛持ちの人が、なたの周りにも、一人や二人は必ずいるはずですが、そんな一般的な症状であっても、病院では、決定的な治療法が存 在しません。そればかりか、実は、頭痛発生の根本原因すら、いまだに解明されてはいないのです。もちろん、これは頭痛だけでなく、歯痛の場合も同じです。 虫歯などの直接の原因が無いのに、原因不明の歯痛を訴える人は、意外に多く存在するのです。

 また、顔面の紅潮、体のしびれ感など、チャイニーズレストランシンドロームの症状のほとんどは、現在の医学でも、はっきりとした診断ができるわけではあ りません。30年以上経った現在でも、発症の仕組みすら解明されていないのに、なぜ当時、チャイニーズレストランシンドロームの、代表的な症状である頭痛 と、MSG摂取との間に因果関係はない、と断定できたのでしょうか。

 もちろん、とんでもない量を使用しての実験で、MSGを悪者に仕立て上げた論文には、わたしも賛成できません。毒性に問題が無い、という点も、科学的に 疑いがないと思っています。しかし、毒性という意味では、直接的な問題は無いとされる物質であっても、体内に摂り込まれれば、当然、さまざまな影響を及ぼ しますし、それらの体内での働きを、すべて把握することなど、不可能なはずです。そうであれば、MSGも、体内でなんらかの働きをしていることだけは、だ れも否定できない事実ですから、それが、玉突き式に、なんらかの症状を引き起こしていることも、十分考えられるのです。

 実際、チャイニーズレストランシンドロームとも、多くの症状が重なっている、線維筋痛症においては、MSGが特異的な働きをするということが、昨年 (2008年)、科学的に立証されました。これは、当時のMSGに対する疫学調査とは、矛盾した結果になっているのです。
 
 やはり、この問題を解く鍵は、神経伝達物質と、頭痛や腰痛発生のメカニズムとの関係を、解明することにあるようです。そこで、次回からは具体的に、頭痛 などの発生のメカニズムを見ていきたいと思います。

          隔!週間 ハナヤマ通信 226号 2009年9月16日発行




   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(18)

   

 ●だれも知らない頭痛の原因!


 今回はチャイニーズレストランシンドロームの代表的な症状でもある、「頭痛」発生のメカニズムを、具体的に見ていきたいと思います。

 わたしはいままでずいぶん多くの頭痛持ちの方を診てきました。彼らは、何年にもわたって、慢性的な頭痛に悩まされており、頭痛薬なしでは暮らせなくなっ ています。その痛み方は、周期的なものだったり、不定期だったりしますが、いざ頭痛に襲われると、起き上がることもできないほど、ひどくなることもあるよ うです。

 しかし、それほどひどい症状であっても、病院では、対処療法以外に、頭痛の治療法はありません。そればかりか、脳の疾患でもない限り、その原因すら特定 できないのです。

 実は、そのような、病院では特定できない頭痛を抱えている人たちには、ある共通した現象が見られます。症状が出ているときの、彼らの「第二頚椎は、必ず 左にズレている」のです。それと同時に、後頭部の「ぼんのくぼ」と呼ばれる部分(首の中央の凹んだ部分)の周辺皮膚が、赤あざのように、変色しているのも 特徴です。

 頚椎とは、首の骨(椎骨)のことで、通常は7個ありますが、第二頚椎というのは、上から2番目にある椎骨のことです。この第二頚椎が左にズレているの を、正しい位置に矯正してやると、ほとんどの場合、その場で頭痛が消えてしまいます。このことから、第二頚椎の左へのズレと、頭痛との間には、因果関係が あることがわかるのです。

 また、非常に興味深いことに、これらの慢性頭痛の持ち主の多くは、頭痛が始まる前に、頭痛の元が下の方から駆け上がってくるような感じがして、それが頭 部まで達すると、いつものように頭痛になる、といっています。

 ところが、第二頚椎のズレを矯正すると、駆け上がってきた頭痛の元が途中で止まってしまって、頭痛にはなりません。そして何度か矯正を受けているうち に、いつしか、慢性頭痛もなくなってしまったという話でした。

 この、第二頚椎のズレは、頭痛のほかにも、実に多岐にわたる症状を引き起こしています。たとえば・・・・・

 ・フワッとする目まい
  (メニエルのようにグルグル回る目まいとは別)
 ・人によっては、そのフワッとした目まいで起き上がれなくなる
 ・かすみ目
 ・視野が狭くなる
 ・視野がくらくなる
 ・歯肉や顔面のさまざまな痛み
 ・舌がつる
 ・耳が聞こえにくい
 
などの、症状も見られます。その上、それらの症状の複数が、同時に発生することもあるのです。

 これらの症状も、左にズレた第二頚椎を矯正すると、消えてしまうのですから、やはり、頭痛同様、ズレとの因果関係は明らかだといえます。

 しかし、このような「骨のズレ」という概念は、医学上存在していません。まして、第二頚椎のズレが、頭痛をはじめ、さまざまな症状を引き起こす原因と なっている、などとは、だれも考えていないので、世界中のどの医学書を開いてみても、このメカニズムは記載されていません。そこで、第二頚椎が、なぜこれ らの諸症状を引き起こすのかについて、わたしなりの考察をしてみたいと思います。

 そもそも、頚椎というのは、胸椎や腰椎とは、形態的に大きく異なっています。頚椎には、椎間動脈孔(ついかんどうみゃくこう)という、動脈が通る孔が、 左右に一つずつ開いていますので、第二頚椎が左にズレると、この椎間動脈孔の位置も左にズレますので、なかを通っている動脈は、圧迫もしくは牽引された状 態になります。それは、椎間動脈に負荷がかかった状態ですので、動脈炎のような症状を引き起こすと考えられます。この動脈炎が、頭痛という症状になるので す。

 では、ほかの症状についてはどうでしょうか。まず、ズレによって、椎間動脈が圧迫されれば、脳への血流は阻害されますから、虚血状態を引き起こして、フ ワッとする目まいなどが起こります。

 また、椎間動脈に対するダメージが、三叉神経に影響を及ぼすことは、医学的にも知られている事実ですから、それが、歯肉や顔面への症状となって現われる ことは、不思議なことではありません。

 さらに、第二頚椎がズレることによって、迷走神経も圧迫されることがあります。そうすると、胃の働きが悪い、むかつき、といったような消化器の異常ま で。引き起こされるのです。

 それだけではありません。ズレた椎骨が周辺組織を圧迫して、そこに腫れが起きます。すると、その腫れた組織の範囲によっては、周辺のどの神経まで圧迫さ れるのかを、完全に把握することはできません。そのため、一般の人には予想もつかない範囲で、さまざまな症状が引き起こされることになるのです。

 このように挙げていくと、第二頚椎の左へのズレによる症状が、いかに、チャイニーズレストランシンドロームや線維筋痛症と符合しているか、おわかりいた だけると思います。

 そのチャイニーズレストランシンドロームにおいて、MSG(グルタミン酸ナトリウム)には毒性が無く、症状との因果関係もないと、科学的に証明されたと いう話は前回も書きました。
 しかし、昨年発表されたミシガン大学の研究によると、MSG摂取と、線維筋痛症の症状悪化には、因果関係があることが立証されたのです。線維筋痛症と チャイニーズレストランシンドロームは、症状が重なる部分が大きいのですから、この研究の結果は、以前の調査とは矛盾していると見るべきです。

 では、この矛盾をどのように考えたらよいのでしょうか。これには、第二頚椎の左へのズレという一側性の現象を見れば、一つの回答が得られます。

 まず、「MSGには毒性は無いけれども、体内に取り込まれた時点で、なんらかの科学的な作用を及ぼす」ここまでは、だれ否定できません。そして、「その 後、何段階かの作用を経て、その結果として、様々な症状を引き起こしている」これも、当然のことだといえるでしょう。そうであれば、MSG摂取との因果関 係のある・なしは、その及ぼす影響を、どの段階で切り取って判断するかによって、調査の結果が違ってくることになるのです。

 具体的に言えば、MSGの摂取は、神経伝達への何段階かの作用を経て、多裂筋を特異的に(一側性で)収縮させているのではないか、とわたしは考えていま す。

 この多裂筋とは、第二頚椎以下、胸椎、腰椎ならびに、仙骨に付着している筋肉ですから、この一方が収縮すると、付着している椎骨は片側に引っ張られるこ とになります。局所的に引っ張られれば、椎骨は簡単にズレてしまいますので、たまたま、第二頚椎がズレれば、それは頭痛などの症状となります。それが、腰 部に発生すれば、腰痛になるわけです。

 もちろん、こういったことは、科学的な実験をしてみなければ、確定的なことだとはいえませんし、MSGだけが、このような作用を及ぼしているわけでもな いでしょう。しかし、頭痛などの症状の発生を、神経伝達の影響から逆に遡っていくことで、こういった仮説を立てることも十分に可能なのです。

          隔!週間 ハナヤマ通信 227号 2009年9月30日発行



   

   ■「ねじれ現象」再考:腰痛に関する形態学的考察(19)

   

 ●腰痛方程式の[X]はセロトニン!?

 

 前回までは、頭痛・腰痛発生の仕組みとして、

  ▼グルタミンソーダ(MSG)の摂取
  ↓
  ▼[x」(未知数エックス)
  ↓
  ▼左多裂筋の収縮
  ↓
  ▼椎骨のズレ発生
  ↓
  ▼頭痛・腰痛などの発症

というストーリーを考えてきました。では、この場合の[X]には、なにを当てはめて考えたらよいのでしょうか。

 2005年に出版した『腰痛は「ねじれ」を治せば消える』のなかでは、この[X]に、神経伝達物質のセロトニンを入れて、考察を展開しました。

セロトニンは、「キレやすい子どもは、セロトニンが足りない」などという話題で、一般の人にも知られるようになりましたが、その生理的作用は、まだまだ、 わからないことが多い物質です。

 実は、上記の[X]にも、ただ、セロトニンを当てはめただけでは、結果に矛盾が生じてしまうのです。少しややこしい話になりますが、順を追って説明しま す。

 まず、神経伝達物質セロトニンには、抗重力筋を収縮させる作用があるといわれています。抗重力筋とは、地球上で生活するうえでかかる重力に対して、姿勢 を保持するために、緊張を余儀なくされる筋肉で、脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)や腹直筋、大臀筋(だいでんきん)大腿四頭筋(だいたいしとうきん) などをさします。

 もちろん、ズレの発生に、直接、関与していると考えられる、多裂筋も、この抗重力筋に含まれます。ですから、セロトニン量が増えれば、多裂筋は収縮する のです。

 しかし、上記の頭痛・腰痛発生の方程式で、前提としているように、MSGを大量に摂取すると、通常、セロトニン量は減少してしまうのです。それでは、筋 は収縮しませんから、[X]の部分に、セロトニンを当てはめただけでは、式が成立しなくなってしまいます。

 ここで、わたしも頭を抱えました。確かに、MSGの摂取が、セロトニン量に影響するところまでは、科学的に証明されているのです。ですから、この方程式 を成立させるためには、[X]のあとに、多裂筋を収縮させる、もうひとつの未知数[Y]が必要だということになります。

 そこで、考えられる要素は、たとえば、心筋梗塞などの冠動脈疾患の場合、セロトニンに対する感受性が亢進し、動脈の収縮が起こるという事実です。また、 神経根内の血管においては、セロトニンは、血管拡張の働きをすることも知られていますので、セロトニンの減少は、血管収縮を意味します。さらに、腰痛の場 合には、セロトニンが、神経根内の血管を、収縮させる働きをしていることも知られています。

 これら3つの事実からは、MSGの大量摂取によって、セロトニン量が減少すると、神経根内の血管は収縮する、という予測が可能になります。それならば、 その血管収縮によって、神経根内に、動脈硬化のような状態が引き起こされるのではないか。その結果として、多裂筋の収縮が発生するのではないか、とわたし は考えました。

 まだ、知られていない働きとして、ある条件化では、セロトニンが直接、多裂筋を収縮させる可能性もあるかもしれません。

 さらに、最近になって、多裂筋の収縮に関わっている、ほかの要素の存在も、わかってきました。近頃、よく話題になる抗ウツ薬にSSRIとSNRIという 薬があります。このSSRIはセロトニンに対して、また、SNRIは、セロトニンとノルエピネフリンに対して、効果を発揮します。

 ウツ病には、頭痛・腰痛などの、疼痛症状を呈するものがある、と考えられるようになっていますが、こういった疼痛症状には、後者のSNRIが効果を発揮 するのです。

 もちろん、わたしは、これらの疼痛症状の原因が、ウツ病だとは思っていません。本人がウツであろうがなかろうが、疼痛症状の原因はあくまでも、単なるズ レであることを確信しています。

 しかし、抗ウツ薬であるはずのSNRIが、疼痛に効果を発揮するという事実には、大きな意味があるのです。セロトニン単独に効果がある、SSRIでは効 果がなく、SNRIなら、効果を発揮することからは、頭痛や腰痛などの原因、つまり、ズレの発生の陰には、セロトニンだけでなくノルエピネフリンも、なん らかの関与をしている、ということが予測できるからです。

 これでまた、新たな要素が加わって、ますます、複雑な仕組みであることがわかってきました。また、頭痛や腰痛などが、椎骨の、一側性のズレによる現象で あることを証明するには、脳内において、神経伝達物質に左右差が生じる仕組みも、解明しなくてはなりません。

 こういったことは、最新の研究をしている科学者にも、まだ、わかっていないのです。いずれにしても、整形外科での説明で、お決まりの、「ストレスが原因 だ」とか、「多裂筋の筋肉痛だ」というような、そんな単純な話ではないのです。

 しかし、わたしの考えたこのストーリーは、大まかな筋道としては間違っていないはずです。その細部については、それぞれ専門の科学者の手によって、今 後、証明されていくことでしょう。

        隔!週間 ハナヤマ通信 228号 2009年10月14日発行

 




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